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朝もやのきみ
朝靄が、庭園を包んでいる。
夜は明けているはずなのに、うすぼんやりとあかりを含んだ靄が辺りをふさぎ、ここがいつでどこだか、分からなくなる。
音もなく、靄が流れる。
白く沈む薔薇園の入口で、彼女は一人、佇んでいた。
朝露を含んでうるんだ黒髪。白い百合のような横顔。黒目がちな目は伏せられている。
伸びゆく新梢のような、巻いた蔓の先に咲く朝顔のような。頭をもたげた重い蕾のような。
みずみずしさと、あやうさで、目が離せない。
淡い桜色のコートに包まれ、見えているのは顔だけだというのに。
不意に俯いた彼女を、さらさらと、髪が全てを隠してしまった。
泣いて、いるのだろうか。
立ち尽くすうちに彼女はまた靄に巻かれ、姿が見えなくなった。
やがて、太陽が朝靄を払う。
そこにはただ、やっと開いた薄緑の薔薇が、ひとり俯いているだけだった。
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