第三話 左手薬指の喪失

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規則正しい生活と食事。そのおかげかは分からないが、リアムと同居し始めたこの一ヶ月間、とても体調がいい。 「あー、いいねぇ。……あと三十分寝てからなら、もっと良かった」 「それでは、冷めてしまいます」 「分かってるよぉ、冗談さ。せっかく作ってくれてるんだから、温かい内に食べなきゃねぇ」 そう言って笑いかけると、リアムは満足そうに頷いた。 寝室を出て、リビングのソファに座る。こうしてまともな食事をする習慣が付くと、ちゃんとしたダイニングテーブルが欲しくなる。 だが、貯金の残高を考えると思いきれず、未だリビングのテーブルで食事をしていた。 「いただきます」 テーブルに置かれた湯気を立てる朝食を前にして、ジェフリーは手を合わせる。 ジェフリーの母は、日本人だった。その為和食もよく食卓に並んでいたが、子供の頃は味気なくて苦手だったものだ。 煮物を前にハンバーガーやブリトーなどを欲しがり、母に怒られたりもした。 だが今は、出汁巻き玉子の滋味深い味が理解できる。 「お味はいかがですか、東谷先生」 「うん。今日も美味しいよリアム」 懐かしい味のする食事も、完食して空になった皿を前に胸を張って誇らしげにしているリアムも、いつもジェフリーを癒してくれている。 二人して無職だという不安さえ無ければ、最高のルームシェア生活だ。     
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