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第九話 ある機械兵士の恋
この場所は相変わらず、油臭い風が空に向かって吹いている。ジェフリーの黒い巻き毛もふわふわと揺れた。
すっかり春めいて暖かくなって来たが、冷えないようにコートは羽織っている。
その裾も、ぱたぱたと風ではためいた。
だが、もう引っ張られる感覚は無い。
このスクラップ処理場には、今も毎日大量の鉄屑が捨てられている。
それを重機で片付けていた青年が、ジェフリーに気付いて手を振ってくれた。
「あ、アズマヤのおっさん!久しぶりだなぁ!」
「ん、そうだねぇ。半年ぶりくらい?」
「おっさんの話は、毎日毎日聞いてんだけどな。ちょっと待ってて――おーい、リアム!彼氏が迎えに来てるぞ!」
青年が大声で呼ぶと鉄屑の山の向こうから、見慣れた鋼鉄の異相がひょこっと顔を出す。
青年と揃いの作業着を着たリアムだ。
リアムは足元の鉄屑を踏み付けガシャガシャ言わせながら、ジェフリーに駆け寄ってくる
「ジェフリー。貴方がここに来るのは、珍しいですね」
「んふふ、リアムに早く会いたくて」
リアムは今、このスクラップ処理場で働いている。例のドジなお爺さんが辞めたので、代わりに雇って貰ったのだ。
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