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第三話 左手薬指の喪失
元々、ジェフリーは怠惰な人間だ。
仕事の他には趣味も無い。
これまで休日は日がな一日寝ているか、ボーッと煙草を吸っているだけだった。
「おはようございます。東谷先生」
だが、今は違う。
うつ伏せに寝ているジェフリーの足を冷たい鋼鉄の手が掴み、無理矢理ベッドから引き摺り下ろされる。
べちゃりと床に落ちて、思わず呻いた。
「……最近さぁ、僕の扱い雑じゃなぁい?」
「普通に起こすのでは、三十分かかります。これが効率の良い方法だと判断しました」
「あー、そう」
まだ眠たいが、しぶしぶ身体を起こす。
壁掛け時計で時間を確認すると、午前七時きっかりだ。
リアムは毎晩二十二時に、ジェフリーにパジャマを着せベッドへと押し込めて、朝は七時に叩き起こす。
宵っ張りのジェフリーが、こんなに規則正しい生活をしているなんて何年ぶりだろうか。学生時代だって、こんなに早寝早起きをしてはいなかった。
「んーいい匂いがする……朝ごはん、なぁに?」
「今朝は和食にしました。出汁巻き玉子と、トーフとワカメの味噌汁と、塩鮭です」
それはリアムがこうして起こしてくれるからもあるが、三食きっちりご飯を作ってくれるから、というのもあるだろう。
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