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――ミシリ。訳の分からない状況のなか、耳に届く異様な音。再度、ミシリと音が鳴り、ドアを引く俺の力加減に合わせて家鳴りのような音が大きくなっていく。頭上から聞こえてくる音に、恐る恐る顔を向けてみた。
「――――!!」
視界に入ってきたのはドアを掴む右手。そして、その手の奥にある鋭い眼差しを湛えた涼やかな顔。両手でドアノブを掴み、低い体制になって全力で閉め続ける抵抗を、宇宙人は片手だけで押さえ込んでいたのだ。
力では敵わない。即座にそう判断し、俺はこの場を放棄して別の部屋に逃げることを選択した。パッとドアから手を放すと、急に抵抗がなくなった反動で宇宙人はよろめいていた。その隙にと、慌てて背を向け、廊下の先にあるリビングに向け走り出した。しかし、混乱と恐怖から此方の足までよろめいてしまい、数歩も走らないうちに転けてしまった。立ち上がろうと必死にもがくが、腰が抜けてしまったのか足に上手く力が入らない。壁に手を添えて身体を支えながら立つも、そのたびにガクガクと膝が震え、尻が床に戻ってしまう。
そんな風に廊下の真ん中で無様な行動を繰り返していると、ドアが静かに閉まっていく音が聞こえ、ヒタヒタと足音が背後に迫ってきた。俺がたてる手足をばたつかせる音の隙間に、近づいてくる足音。どうにかしてリビングまで逃げられないかと、必死になればなるほどに足が縺れて立ち上がれない。
そして、そんな俺を嘲笑うように、すぐ後ろにで迫った足音が止まった。ゴクリと息を飲み、そろりと振り返る。が、俺の目が恐怖を捉えるよりも早く、乱暴に髪を鷲掴みにされ強制的に顔を上向かされた。髪を掴まれ、頭皮が引っ張られる痛みに両目を閉じてしまう。だが、瞬きに似た一瞬の反応の後、視界に映ったモノにさらなる衝撃を受けた。
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