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「……あっ。もう、ないのか」
紅茶のお代わりをしようと持ち上げたティーポットが意外に軽く、視線をカップへと向ける。傾けられたポットからは琥珀色の液体は流れてこず、なけなしの雫が注ぎ口から落ちてくるだけだった。がっかりとし、ふと横を見れば菓子の入った器も空になっている。
「……ああ。もう、こんな時間だったのか」
意識がテーブルの上から窓の外に向けられ、ようやく時間の流れに気づいた。あんなに眩しかった陽射しは、すでに夕方の落ち着いた色合いに変わり始めていた。
「さてと、そろそろ夕飯でも作るかな」
本を閉じ、四十を迎えてから急激に疲れやすくなった目頭を押さえて、夕飯作りのために台所へと移動した。
「今晩は何を作ろうかな~」
鼻歌混じりに冷蔵庫の中身を確認する。しかし、最悪なことに、肉などのがっつりとメインを張れる食材の買い置きが見当たらない。あまり飲む時間がないのに、つい買ってしまうビールの缶だけが場所を占領してしまっている。
「う~ん。仕事帰りに買っとけばよかったな」
有意義な時間を過ごした後と言うこともあり、微妙に面倒な気分になってしまう。けど、このままでは食パンと目玉焼きといった、昼食時よりも侘しい夕食になってしまう。それでは味気なさすぎると、俺は財布片手に玄関を出ていった。
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