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「さてと、あとはご飯が炊けてから、これに火を通せばいいかな」
スーパーでは、秋でもないのにキノコの安売りをしていた。それが目に入った俺の頭の中では、キノコの炊き込みご飯とスープ。あと、メインとして鮭のホイル蒸しが今夜のメニューとして出来上がっていた。
あらかた支度が終わり、ご飯が炊けるまでゆっくりとしようと、コンロに掛けたばかりのスープの火を弱火にして、洗い物をしていた時だ。来客を告げるチャイムの音が屋内に鳴り響いた。普段ならリビングからインターホン越しに確認をするのだが、今日は台所に居たこともあり、そのまま玄関へと向かった。
「はい、はーい。どちら様ですか?」
そして、何の警戒心も持たず、玄関のドアを開けてしまった。
「……――――!?」
ドアを開けた瞬間、我が目を疑った。思考は追いつかず、そのまま数秒間ほど目の前の人物を見上げていた。そして、ワンテンポ遅れて数十分前に得た様々な情報が頭の中を駆け巡り、警鐘を鳴り響かせた。
玄関先に立っていたのは、胸元から腹筋まで開き、やたら光沢のある妙な服を着たイケメン。そして、俺を見下ろす鋭い眼差しには覚えがあった。彼はスーパーに向かう道中で見かけた切れ長の目をした長身の男性で、今もっとも世界を震撼させている存在の一人だった。
咄嗟に全力で玄関のドアを閉めた。最初に見かけた時はその美しさに惚けてしまったが、今は情報を得て彼を危険人物だと認識していた。
しかし、ドアが閉まらない。ドラマみたいに足先をドアに挟んで阻止している様子はない。それなのに、何かの抵抗にあい、大きな隙間を残してドアが動かなくなってしまった。
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