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「そうだったか。ふむ。良いぞ。決まっておる男前だ、わしに似ないでよかった。ばあさん今は見るも昔は大そう美人で」
「今はどう見えてるんだよ!」
じいちゃんの頭が縦におおきく揺れる。
「痛たた、そうわしなんかがよう求婚できたなと、はてどうやってこうなったんだか」
「もういいよ昔のはなしは。トウタが退屈でしょ」
ばあちゃんは空になった箱を仕舞いに奥へいく。
じいちゃんは老眼眼鏡をとる。
「遊んでおいでたくさん。晴れの日も雨の日もそれがあればどこへでも行ける。いろんな人に自慢してやるといいさね」
ひとまず、トウタはチョコをくちに含みお茶を流し込む。これが彼のお気に入りだった。上目使いにその赤白黄色の傘ぼうしを見る。頭を少しふってみる。けっこうかるい。甘い口の中はお茶とチョコが良く合うもんだ。
じいちゃんとばあちゃんは何かにつけて言い争いのような会話をしている。
「呆れたよ、あげたものすぐに取り上げようとするじいさまがどこにいるかね。ここにいるね」
「いやたしかに昔あんなこしたこがいたんだよ。あれはまだいそぎあしの若かったころだ」
「おかしなこともあるね。とうとう来たか、残念だよそりゃお互い棺桶に片足半分つっこんではいますけどねじいさん、子供たちに迷惑だけはとあたしはしっかり気をつけてきたけど、あんたのそれはぼけというやつじゃないかね。それはきっとそうだよ」
「たしかに変ではある。あのハイカラなものは昔には似合わないがしかし、うむ……既視感というやつか。これは」
「ぼけたら面倒みるのはわたしなんだから、まったく大事になったら山にほっぽりだすからね」
「姥捨て山、ふむ。これはじじ捨て山か。この歳でサバイバルというのは結構な冒険になりそうさな。そのときトウタ迎えにきてくれるかね」
「うん、これかぶってじいちゃん迎えにいくよ」
「いかなくていいよ!」
ばあちゃんの手が触れてじいちゃんの顔が横に残像を残してゆれる。
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