mirai_movie

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「おはよう。ねぇ咲希、面白いもの見せてあげる!」 恵梨香のよく通る声が、3ー5の教室内に響き渡った。学校指定のカバンを激しく揺らしながら近づいてくる。恵梨香が騒がしいのはいつものことだ。咲希は笑顔で返す。 「またユアチューバーの動画?恵梨香ほんと好きだよね」 咲希は少しイヤミっぽく言った。しかし恵梨香は気にする様子もなく、かぶりを振る。マロンブラウンに染めた髪がばさばさと揺れた。 「違うの違うの。なんていうか、オカルト系?」 そう言いながら、恵梨香は制服のポケットからスマホを取り出す。画面がバキバキに割れているのが恵梨香らしい。慣れた手つきでユアチューブのアプリを起動し、画面を咲希の方に向け、動画の再生ボタンを押す。 幼い女の子の笑顔のアップで、動画は始まった。肩につかないくらいのサラサラの髪。少し日に焼けた丸顔の女の子が、白い壁をバックに、何かを喋っている。しかし声がまったく聞こえない。 「あ、これ、音量下げてるわけじゃなくて、もともと無音の動画だから」 咲希の表情から察した恵梨香がそう言った。ただでさえ画面が割れていて見にくいのに、音もないなんて呆れる。咲希は頬杖をついた。 動画の女の子は、おしゃべりをやめたかと思うと、おもむろに画面外からスケッチブックとクレヨンを取り出した。十二色セットのクレヨン。咲希が幼稚園で使っていたものと同じだった。 それからしばらく、お絵描きしている女の子の映像が続いた。女の子の手もとはギリギリ見切れていて、何を描いているのかまではわからない。咲希は少しイライラして、早送りを促したが、恵梨香は首を横に振った。 「何これ、ホームビデオ?」 咲希が尋ねても、恵梨香は何も言わなかった。小さな女の子はたしかに可愛いが、他人の娘に興味はない。恵梨香はロリコンなのか?そんな話は聞いたことがないが。 動画の女の子が床にクレヨンを置き、また何かを喋り始める。そして、スケッチブックを両手に持ち、こちらに向けた。
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