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大きなビルの絵だった。このくらいの年の女の子にしてはかなり上手だ。正面から描かれたビルには、窓が一つ一つ、さらにはビルの入り口の回転ドアまで細かく描き込まれている。しかし、なぜかビルの壁が赤色と灰色でぐちゃぐちゃに塗られていて、それだけが惜しかった。
動画は絵を映したところで終了。恵梨香は嬉々とした表情で咲希を見つめている。
「どう?びっくりした?」
「びっくりしたって、何が?」
たしかに上手い絵だとは思ったが、天才お絵描き少女と呼べるほどではなかった。輪郭線はわりと整っているのに、色塗りの雑さで台無しになっている。
「気づかない?これ、おとといのホテル火災の絵だよ」
「あっ…」
一昨日の6月3日、中国上海のホテルで大規模な火災が発生し、日本でも大きなニュースとなった。
ハリウッド映画のワンシーンのような映像は繰り返しテレビで流されたので、咲希もよく覚えている。動画の女の子の絵は、たしかにその火災の映像とよく似ていた。
「実はこの動画、なんと、一週間前に投稿されたものなのです!」
恵梨香は得意げに、動画の下に表示されている投稿日時を指差した。5月29日午前0時。今日からちょうど一週間前の日付だ。それを見て、ようやく咲希は、恵梨香の言わんとしていることを察した。
この動画の女の子は、未来に起こることを絵で予言していたのだ。
授業開始のチャイムが鳴る。恵梨香は咲希の反応に満足したのか、席に着いた後もソワソワしていた。
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