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授業が終わると案の定、ゴキゲンな様子の恵梨香が、咲希をトイレに誘った。
「すっごいよね。未来を予知する女の子!」
恵梨香は、少し頭の足りない女子高生だ。
あんなものを簡単に信じてしまうのだから、将来が心配でならない。咲希は洗面台の鏡の前で前髪を直しながら、授業中に考えていたことを恵梨香に話した。
「つまり、あれはインチキってこと?なぁーんだ」
恵梨香の良いところは、素直なところだ。見たもの聞いたもの、なんでも信じる。咲希はそんな恵梨香が好きだった。
放課後には、二人とも動画のことなどすっかり忘れて、ファミレスで雑談しながら勉強していた。浮いた話はないけれど、曲がりなりにも受験生。大学生になることは、二人の大事な目標だった。
翌朝、咲希はリビングで朝食をとりながらニュースを見ていた。
テレビに映っていたのは、昨日、恵梨香が見せてきた、あの女の子のお絵描き動画だった。しかし、それは火災を予知した動画としてではなく、誘拐事件の手がかりとして紹介されていた。
動画に映っている女の子の名前は、星野未来、4歳。ひと月前から行方不明で、両親から捜索願が出されていた。
未来ちゃんの映った動画を発見した警察は、すぐに投稿者のIPアドレスを調べ、それがスマホから投稿されていることを突き止めた。
しかし、そのスマホは、ある人物が過去に紛失したものであり、それを拾った誘拐犯が、フリーWi-Fiを使ってサイトにアクセスし、動画を投稿しているという。
GPSで追跡しようと試みたが、どうやら今は電源が入れられておらず、捜査は難航しているとのことだった。
咲希は驚いていた。ただのインチキ動画が、まさか誘拐事件に関わっていたとは。
しかし、朝食を済ませ、家を出る頃にはもう、その驚きも消えていた。赤の他人の女の子をいつまでも気にかけるほど、受験生は暇ではなかった。
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