9人が本棚に入れています
本棚に追加
8日後の6月20日、アメリカのワシントン州フリーウェイで、大型トレーラーの横転事故が発生した。原因は前方の車の急ブレーキ。それを避けようとしたトレーラーが別の車に乗り上げ、横転。積んでいたガソリンが道路に漏れ、炎上するという大事故だった。
例の動画の再生数は、ぐんぐん伸びる一方だ。
『モノホンの予言者!未来ちゃん』
『次の標的は日本?未来ちゃんのデスムービー』
便乗したユアチューバーたちがこぞって、未来ちゃんの正体についての自論を展開した動画を投稿し、再生数を稼いだ。
未来ちゃんの両親が住む自宅には、連日のようにメディアが押しかけ、インタビューの機会をうかがっていた。
テレビ番組でも、未来ちゃんを誘拐事件の被害者としてではなく、予言者として扱うものが増えてきた。
それでもやはり、人間とは疑り深い生き物で、未来ちゃんの予知に関しては否定的な意見が大半を占めていた。
6月26日に、mirai_movieが新たな動画を投稿するまでは。
慣れた様子で、絵を描いていく未来ちゃん。掲げられた絵は、四歳児の画力とは到底思えないレベルにまで向上していた。
緑の芝生の上で、黒いユニフォームを着た人がガッツポーズをとっている。その傍らで、黄色いユニフォームの人が呆然と宙を見上げている。そんな絵だった。
これは誰が見ても明らかに、サッカーの試合の絵だった。
咲希は内心ホッとしていた。この画力で、また凄惨な事故の絵を見せられたらと思うとゾッとする。サッカーの試合結果の予知なんて、平和じゃないか。
10日後のW杯で、弱小国のラオスが、強豪国のブラジルに勝利。歴史的快挙と報じられた。ラオスのユニフォームは黒、ブラジルは黄色だった。
未来ちゃんの予言はまたしても的中。しかし、そんなことはもう咲希にとってどうでもよかった。
早く未来ちゃんを、誘拐犯から救ってほしい。警察は何をやっているんだ。
咲希だけでなく、世論がそういう方向に傾きつつあった。
最初のコメントを投稿しよう!