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そんな世論とは裏腹に、ネットでは未来ちゃんを救世主として崇めるサイトが作られていた。その中には、未来ちゃんと誘拐犯を引き離すべきではない、警察は捜査を中止するべき。などという過激派もいた。未来ちゃんの両親がインタビューで、娘にそんな能力はない、と発言したことがきっかけだろう。
未来ちゃんは、誘拐犯と一緒にいるから予知能力を発揮できる。などというデタラメな主張も無視できないほどに、未来ちゃんの影響力は国内外を問わず拡大していた。
そして、7月9日に投稿された動画が、mirai_movieの最後の投稿となる。
いつもと変わらない、邪気のない笑顔で、未来ちゃんは絵をこちらに向けた。
日本、そして東京だと一目でわかる、繊細で正確な描写。赤い鉄骨でできたタワーの背後に、巨大なオレンジ色のキノコ雲が上がっていた。
咲希は目を背けた。手が震えている。恐れていたことが、起きてしまった。
一週間後?3日後?それとも明日?
頭が真っ白になっていくのがわかる。未来ちゃんの絵は、この国の終わりをはっきりと示していた。
突然、スマホの着信音が鳴り、はっと我にかえる。恵梨香だった。
「もしもーし?あのさー、明日の数学の小テストの範囲ってーー」
いつもと変わりない、間の抜けた恵梨香の声に、目頭が熱くなる。
「咲希?どうしたの?もしかして泣いてる?」
「恵梨香、あの動画、見てないの?」
「見たよー。なんかオレンジ色の雲が東京で発生するみたいだねー」
恵梨香は、やっぱり何もわかってなかった。
「あれ、ただの雲じゃない。たぶん原爆とか、水爆の類いだと思う。東京、いや、日本がやばいよ。恵梨香どうしよう」
「え?でもあれってインチキなんでしょ?咲希言ってたじゃん」
「インチキじゃないよ!未来ちゃんの絵は…現実になるんだよ」
「えー、それってどういう…」
通話を切った。これ以上、口にするのが怖かった。
逃げる?でもどこへ?
学校は?受験は?
私たちの未来はどうなるの?
未来ちゃんは、救世主でも、なんでもなかったーー
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