プロローグ

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日が落ちるとまだまだ肌寒い 随分日が長くなったが六時を過ぎるともう空は紫から紺に変わりつつある 小さな駅のロータリーは到着する電車に合わせて迎えの車がエンジン音を途絶えさせることなく列をなして待機していた 高級住宅街が近いのだろう……高そうな車が多い 夏に向けて街路樹の伐採が始まったのか2tトラックが横付けされ強力な光を放つハロゲンライトが作業を照らしている 駅に電車が到着したらしい、今まで無人に近かった駅の改札口からドッと乗客が吐き出された 都心からの仕事帰りや制服を着た学生、遅くなったと足を早める買い物袋を下げた主婦……… 会えると思ってここに来たわけじゃない 乗降客が途切れそれぞれの家路に散り散りと消えていった またシンと静まり返った駅からポーンと案内音だけが響いた 「帰ろう………」 独り言を口にしてロータリーの隅にある道路と歩道を分ける銀色の仕切りから腰を上げた ザァっと春先特有の空気を混ぜるような突風が足元を走りワッと伐採作業の方から声が上がった 今の突風でハロゲンライトが傾き倒れないように数人で押さえ込んでいる 「あ……………」     
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