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仁は病室にいるだろうか……… 高い病棟のビルを見上げ登れるかな………と壁を見上げた 神崎の病室は5階にある、登れるかもしれないが途中で見つかれば警察に通報されてしまう どうしても神崎の顔が………声が聞きたくなって昨日の今日なのに来てしまっていた、もう目を覚ましているはずだ あの優しい顔で、何でもない……大丈夫だと笑って欲しい、苦しくて会いたくて一晩のたうち回りこれが何年も続いているのだと神崎の気持ちが分かるような気がした   いなくなれなんて、消えて欲しいなんて一瞬でも思った事が急に現実になって押し寄せ、同じ空間にいてくれるだけで嫌われても拒否されても幸せなんだと身につまされた 「真っ当に玄関から入るか…………」 仕方がない、正面玄関から自動ドアを抜けてエレベーターのボタンを押した ポーンとスピーカーを覆った様な抑えた到着音を鳴らし静かに開いたエレベーターの扉から廊下を伺うと昨日来た時には人が多くざわついていた病室はひとけもなく静まり返っていた 「?………何でこんなに静かなんだ…………」 足音を立てないように特別室2と書かれたドアの前に来るとそこは開け放たれたまま、もう中身は清掃され空になっていた 「まさかしんだりしてないよな」  口にした自分の台詞にゾッとしてダッと駆け出した、神崎のマンションまでは電車で行かなければならない、三十分はかかるが少なくとも走るよりは早い
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