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 手入れをされていないのであろう電灯の、仄青い光が、ときたま、じじ、と鳴き声を挙げ、点滅しながら道を照らした。  その光の中に。ふ、と影が通ったのである。  目を瞬かせる。  今のはなんだ。  小さな影であった。自分の腰ほどの、影――人影――が、電灯のスポットライトに登場し、あっという間に去っていった……そのように見えた。  立ち止まり、目を凝らしても、道の先には誰もいない。ただぽっかりとした暗闇が広がっているだけである。  見間違いか。  一度首を振り、足を踏み出したその先。  別の電灯の下に、また、ふ、と現れるのである。  ぞわりと背中を虫が這う。  影は、子供のように見えた。頭ばかりが幾許か大きい。ことりと首を傾げた姿で、ふ、と現れ、瞬きすると消えてしまう。  気味が悪い。  早く、家に帰ろう……。  歩く。  現れる。  歩く。  現れる。  歩く。  現れる――。  たまらず、駆け出した。  明らかに人ではないだろう。こんな夜中に、子供が一人で出歩くこともおかしければ、電灯の下だけに現れることも不可解だ。そも、影だけが 伸びているというのに、その本体はどこにある。  風景が、後ろに飛んでいく。次々に現れ、流れていく電灯の下に、あの影が立っている。  走る、走る。  おかしい。こんなにこの坂は長かっただろうか。もうとうに上り切っているはずではなかったか。息が上がった。喉が張り付き、息もうまく吸えなかった。それでも走る、走る……。ぼんやりと、光が見えた。坂の終わりだ。もうすぐだ、もうすぐ……抜けた!  やけに、眩しかった。昼間のような明るさに、目を瞬かせた。耳障りな音。ブレーキの。  視界いっぱいに広がった、白い光の中に、ふ、と。  ふ、と、現れたのである。
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