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監督は、むくりと上体を起こして言った。 「宇宙人てことにしない?」 「へ?何がですか?」 「だから、その死骸だよ。例えば、それは宇宙人の死骸ってことにして、 冒頭のシーンにマエちゃんが撮ってた動画を使って、その死骸に なってしまうまでの物語を、一本の作品にするんだよ。どう、このアイデア?」 「どうって言われても……」 そんなことよりも、特急が迫っていることのほうが気がかりだった。 「いいから、まずそこから出て下さい。それから話をしましょう」 「何言ってるんだ!こういうのは初期衝動が大切なんだよ! 今決めるんだ!君はこの企画を面白いと思ったか? クソだと思ったか、はっきり言えっ!」 「そんなの、急に言われても分かんないよ!」 「いいから答えろ!最高か!最低か!」 ここで最低なんて言ったら、そのまま目の前で特急に吹き飛ばされるのがオチだ。 ぼくに選択肢はなかった。 「最高です!」 「よおし!俺とマエちゃんで、この映画を完成させるぞ!いいな!」 監督はすっくと立ち上がり、警笛を鳴らす特急に中指を立てて 踏切のこちら側へと降り立った。 一連のやりとりは全て動画で録画してあり、 監督の許可を得て、アップロードすることになった。 資金集めのパフォーマンスでは?というツッコミコメントもあったが 多くの人の関心を集めて、再生数は一週間で10万回を越え まだまだ増え続けている。 企画はクラウドファンディングでの実現を目指し 現在も進行中。 まだ目標の半分程度しかお金が集まっていないが ぼくはそれを見る度にわくわくしている。 死骸を撮っている時と、同じくらいに。
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