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「亜矢子」
「なぁに?」
名前で呼ぶとそこそこ機嫌が良さそうだ。
本当なら彼女が出来て名字から名前で呼ぶ段階でドキドキしながらってのがあるはずなのに、今回は全くない。
ほぼ初対面の自称枕返しを名前で呼んだところで、取り憑かれることはあっても恋が芽生えることはなさそうなのだ。
「亜矢子」
「なぁに?」
「亜矢子」
「しつこいわよ」
何故かグーで殴られた。
呼べと言ったりしつこいと言ったり、僕にどうして欲しいんだ。
飲み終わったのを見計らって追い出すことにした。
「そろそろ飲み終わっただろ。帰れよ」
刺々しく言ってみた。
「そうね。約束だから帰るわ」
拍子抜けだ。
ごねるかと思ったけどあっさり帰るという。
それはそれで、相手にされていないようで寂しい気もする。
コーヒーカップをテーブルに静かに置いて、バッグを持つと足音も立てずにドアから出ていった。
呆気なさすぎて面食らう。
でも、そんなこと無かった。
次の日の朝それも早朝4時半。
けたたましいインターホンが部屋に鳴り響く。
何を言っても鳴り止ませないのが憎らしい。
「誰だよ」
ほとんど開かない目を無理矢理開いてドアを開けた。
「朝ごはんよ!」
キラッキラの眼差しを向けて亜矢子が立っていた。
「枕返・・・」
「亜矢子!!」
言い終わる前にグーで殴られた。
なんでこんなに横柄なんだ。
痛みに苦しんでいると亜矢子の姿は身の前から消えていた。
ハッとして振り返ると既にテーブルに着席している。
嫌がらせにも程がある。
「何の冗談だ」
「冗談なんかじゃないわ!アタシは真剣よ!」
キツイ視線を向けてくる。
「さて、康介!オムライスが待ち遠しいわ!」
「またオムライスかよ!」
それより、亜矢子が居ることに抵抗していない自分が悔しかった。
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