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「有村さんが頼んでも工場長が車を出してくれないので『じゃあ自分で車持ってきます』て啖呵切ってました。どうすんのかな、と思ってたら、翌日ほんとに植木屋さんのトラックに乗って来たんですよね」  トラックはすべて他の現場の配送で予約が入っていると言われ、では自分で車を用意するしかないと思い、造園業を営む友人の車を借りた。忍は大型の免許を持っていなかったので運転も友人に頼んだ。今考えると随分と乱暴な頼み事をしたものだ。 「びっくりしましたよ。SSに植木屋さんのトラックが来るのなんて初めて見ましたからね。助手席から有村さんが降りてきて『セメントください!』て叫んだときはちょっと笑いましたよ」 「必死だったんだよ」  仕事が休みの友人に頼み込み、休みだというのに朝一で千葉のSSに付き合ってもらった。無事に現場にセメントを届けることはできたが、部外者を運搬に駆り出したとあって後で当時の営業部長にこっぴどく叱られた。 「そんなに大事な現場なのかなと思って配送先見たら、有村さんの現場はごく小規模の、アパートの建設現場でした」  大手ゼネコンの現場だから優先する、小規模な現場だから後回しになってもいい、というような順位付けは忍の中に存在しない。まず優先順位の付けがよくわからないし、このゼネコンは一番、この会社は二番などといちいち覚えていられないのだ。 「……相手によって対応の変えるのって、よくわからないんだよ。面倒くさいし」 「そうゆうとこ、すごく好きですよ」  会話の中に出てくる「好き」という言葉に、つい舞い上がってしまう。自分こそ、いつの間にこんなに五十嵐のことを好きになってしまっていたのだろう。 「有村さんに同行していた同僚の方かな、かなり参っている感じで、そのひとに『相手の対応が変わらないなら、こちらのやり方を変えるしかない』って力説してましたよ」
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