3-5【R18】

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3-5【R18】

 大学生活は高校と違って自由と責任の上に成り立っていた。大学では集団での行動を強制されない代わりに、怠ければ一人置いていかれ、望めば好きなだけ学ぶ場が与えられている。  勉強だけではない。年齢も、趣味も、志も、みんなバラバラで、それぞれ個性的だった。気の合う者同士つるむこともあるが、基本的にはみんな個人主義で行動し、五十嵐は今まで感じたことのない自由を感じていた。私立の進学校では出会えなかったタイプの人間にたくさん出会えた。そして同じ性指向の人間とも出会った。  三年の時に出会った沢木という男は、恋愛の対象は男も女もどっちも可能だと言っていた。正確に言えば同じ性指向ではない。バイセクシャルだ。  沢木は常に、自分に好意を寄せる人間をそばに一人は置き、自分が愛されていることを確認しながら生きる男だった。プレゼントを欠かさない女性だとか、いつでもレポートを見せてくれる女だとか、どこにいても迎えに来てくれる男だとか。取り巻きを引き連れ、集団の中に身を置くことで安心しているようなところがあった。そしてそれが可能な人目を引く容姿をしていた。  長い睫毛はカーブを描き、瞬きのたびに軽やかに羽ばたく。彼が思わせぶりにゆっくりと瞬きをすると、たいていの者が目を奪われた。ユニセックスな服装を好み、いつも首回りのゆったりしたカットソーを着て、ひとと話すときには小首を傾げてその白い首筋を見せつけるようにしていた。  最初に近づいてきたのは彼からだった。生意気そうな小さな唇を片方だけ上げて「五十嵐くんと仲良くなりたいな」と話しかけてきたのだ。  魅力的な男だった。初めて自分の性指向を人に打ち明けられるチャンスでもあった。けれど五十嵐は取り巻きの一人になるのは嫌だった。仲良くなるのなら、一対一で向き合って、お互いのことを一つ一つ知ってゆきたい。  沢木に話しかけられてから、自然と彼を意識するようになっていた。沢木の方も自分に少なからず好意を持っている。仲が近づくのに時間はかからなかった。
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