3-5【R18】

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 初めてできた恋人に、五十嵐は舞い上がった。大切に扱い、交際はゆっくりと深めるつもりでいた。  けれど彼の方にそのつもりはなく、五十嵐と付き合うことになっても取り巻きの男や女と二人っきりで会うことをやめなかった。口うるさいことを言うつもりはなかったが、彼にとっては男も女も恋愛対象なのだ。気が気ではなかった。  ある日取り巻きの男の家に泊まったと朝帰りした沢木と顔を合わせたとき、五十嵐の我慢の限界がやってきた。セックスの証拠はないかとシャツを乱暴にはだけさせているうちに、怒りの混じった興奮が突き上げてきてそのまま彼をベッドに押し倒した。初めてのときは優しく、丁寧にしようと思っていたのに。臨んだ形ではなかったが付き合っているのだ、許されると思っていた。 「ちょっと! やめろよ! 無理!」  渾身の力で抵抗され、五十嵐は動きを止めた。恋人同士のちょっとした駆け引きなどではなく、本気で嫌がる彼に違和感を感じた。 「男同士でセックスは無理だって」  自分たちは男同士で付き合っているというのに、男同士のセックスは無理とはどういう意味だろう。恋人同士ならばお互いのことをもっと知りたいと思い、抱き合いたいと思うのが普通なのではないのだろうか。  結局沢木は、バイセクシャルでもなく、同性でさえもその気にさせる自分に酔っているだけの男だった。自分のことが大好きな、ただのナルシストだ。取り巻きにいる男とはキスもしたことがないという。  五十嵐の初恋はあっという間に散った。沢木に未練はなかったが、恋をしたというにはあまりにも何もなさ過ぎた。  別れてからも沢木は何かと五十嵐に構ってきたが、五十嵐は沢木を避けるようになっていた。ひとの好意を利用して自分の自尊心を満足させるような男とはもう関わりたくなかった。それに今度こそ他の誰かと真剣な恋をしたかった。  思うように相手にしてくれない五十嵐に苛立ち、沢木は反撃を始めた。周囲に五十嵐がゲイであることをばらし、五十嵐の友人たちに「俺も突然襲われたから君たちも用心したほうがいい」などと忠告してまわったのだ。
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