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もともとつるんでないといられない性質ではないので、数人の友人たちが離れていくのは平気だった。陰口を叩かれたり、聞こえるように揶揄されても、多少ストレスではあるが我慢はできた。一番堪えたのは「自分はアライだ」と近寄ってくる人間の存在だった。
アライ――ゲイやレズビアンではない者が、性的マイノリティを理解し支援する人――だという彼らは、初対面だと言うのに「あなたを理解できる」「なんでも話して欲しい、力になる」とぐいぐい迫ってきた。五十嵐の感覚からすれば、初対面の人間のことをいきなり理解はできないし、初対面だというのに性的な話をするのも抵抗があった。ゲイもノンケも関係ない。常識のある者同士だったら、良く知りもしない相手にいきなりそんな話をしないだろう。
「アライ」の彼らも、五十嵐の口が重いと勝手に腹を立てた。自分はこうして理解しようとしてあげているのに、貴方はちっとも心を開こうとしない、と。じゃあお前も言えよ。どんな異性が好みで、どんな体形に興奮し、どんなプレイを望むんだ? セックスの話題など踏み込み過ぎだと怒るのなら、そのセリフをそっくりそのまま返してやりたい。
ゲイだというだけで、なぜ放っておいてくれないのだろうか。なぜ追及され、何から何までつまびらかにしないと非協力的だと非難されるのだろうか。男だったら辺りかまわず手を出すわけでもないし、ただ普通に同じ性指向の相手と出会って、普通に付き合ってみたいだけなのに。
何もかも面倒くさくなり、大学には必要最低限しか行かなくなった。自分のことを誰も知らない場所に行きたいと思い、とりあえずお金を貯めることに精を出した。
そのとき出会ったのが忍だった。出会ったというより一方的に見つけた。
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