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「五十嵐……」
「ん?」
忍がシーツの上で顔だけこちらに向けていた。さっきまで涙ぐんでいたとろりとしていた瞳が、小さな顔の中でもう生命力をきらめかせている。唇だけがまだ濡れて普段よりも赤く色づいていた。
「えっち。いろんなとこ、じろじろ見やがって」
早速普段の調子に戻ってしまった忍を、楽しい気分で眺める。回復が早すぎて思わず笑う。少し余韻が物足りないような気もするが、今の生意気そうな顔も、先ほどのうっとりと脱力した顔もどちらも心から愛しい。
「すみません。ついかわいくて」
「えっち。エロ」
少ない語彙力で五十嵐をののしる忍の頭を優しく抱き込む。腕の中でまだ何か文句を言っている。
「ピロートークなんだから、もっと他のことば言ってくださいよ」
「他のって?」
例えば、と優しくおでこにキスを落としながら呟く。「好きです、有村さん」
「……五十嵐」
「はい?」
「……すけべ」
どうしようもなく愛しくて思い切り抱きしめた。言葉で返してくれなくてもいい。忍が愛情深い人間であることはもう既に知っている。それにさっき、全身で五十嵐に愛情を伝えてくれたのだから。
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