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「金曜の合コンどうだった?」 「なんか微妙だった。一次会で解散」 「えー? 盛り上がんなかったんだ?」 「盛り上がらないっていうか、メンバーが微妙で……」 「ユウコの知り合いの商社マンでしょ?」 「四菱商事」 「超大手じゃん!」  朝の通勤ラッシュより早い電車の車内は、月曜とは思えないほど空いていた。さすがに座れはしないが、新聞を広げて読んでも周りのひとに迷惑がられない程度の余裕があった。これが普段乗っている通勤電車なら、新聞を取り出そうと肘を引いた時点で隣人に睨まれる。  有村忍(ありむらしのぶ)は新聞越しに見える女性二人の会話が耳に入りふと手を止めた。乗客はみな手元のスマートフォンに視線を落として車内は静かで、否が応でも目の前に座る二人の会話が耳に入ってくる。 「そう思って期待してたんだけどさ。なんか冴えなくて」 「なになに? なにが冴えなかったの?」 「なんかメンバーの中の一人が北海道出張の帰りだったみたいなんだけど」 「北海道! 海外じゃねーのかよ」 「だよね。まあその北海道土産買って来てくれたんだよね。人数分」 「あ、いいじゃん。優しい」 「……それがさ、北海道土産って言ったらいろいろあるでしょ、五花亭のバターサンドとか、ルタホのチーズケーキとか」 「ライズのチョコポテチとか!」 「それ! チョコポテチ大好き! 止まんなくなるよね」  五花亭は知っているが、あとの二つは聞いたことがない。チョコポテチとは、チョコレートなのかポテトチップなのか、その姿すら想像がつかない。女性が喜ぶ土産を買うのは、ときに仕事よりも難しい。出張の際、忍も女性社員への土産を買うときは非常に気を使う。
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