郵便

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 規則づくめの団体生活にも慣れてきて、上級生や同級生達とも何とか楽しく過ごす術を身につけてきましたが、もっとも嫌なのは夕暮れ時です。    部屋の南側の長い濡れ縁に、二・三人並んでいると、誰彼と云わず集まって来て座り込んで、脚をぶらぶらさせて、誰が云うともなく、何時もの言葉です。  「大阪は大丈夫やろうか? 空襲に遭っているんじゃないかな… お母さん達は今頃晩御飯の支度やろうか… 何時、迎えに来てくれるのかな… 早く来て欲しいわぁ…」    「戦争はきっと日本が勝つと、先生が仰ってたよ。私達は統後の守りをしっかりしなければいけないと。淋しいとも、お腹が空いて堪らなくとも頑張って、耐え忍ばなければならないの。兵隊さん達はもっと大変なんだから」    こんな言葉を交わし乍ら、誰かが♪夕焼けこやけ♪と唄いだすと、上級生の男の子でハーモニカを持っている子がいて吹いてくれるのです。    皆で合唱するのですが、始めは勢いよく唄っているのだけど、だんだん皆の声が小さくなり、一人が泣き声になると、つられて泣きじゃくり、すすり泣く声も入り混じって合唱は終わるのです。
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