序章

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 お正月は一時帰宅を許されたので、大晦日に家へ連れて帰りましたが、半身不随の身体の夫は、立ち上がることが精一杯です。 しかもそれは誰かが支えてくれる事が必要だったりで、トイレも左肩をついて這っていく状態で、何もかもが家族と私の介添えが必要になったのです。 「お正月だからお風呂に入りたい」と云う夫を、どうしたものかと案じて居たら、長男が「俺が入れるから大丈夫だよ」と云って、手際よく衣類を脱がし、抱きかかえる様にして浴室まで連れて行き、シャワーを浴びせ身体中泡だらけにして擦ってくれていました。 本人は浴室の窓枠に、左手でしっかり掴まって立っていました。背が高かった夫よりも息子が大きくて、がっしりしていたので助かったのです。 とても有難く思ったものです。 病院では、身体の不自由な人や、寝たきりの人は機械を使っての沐浴ですので、家庭ではとても大変なのでした。 食事も右手が麻痺の状態なので、左手でスプーンを持ち、口に入れるものの、こぼれ落ち、結局は私がスプーンで口に運んで食べさせる始末です。細かく刻んだおかず共々。 幸い口の麻痺は免れたものの、言語障害がひどく言葉を聞き取るのが至難の業に近かったのです。  その上に、耳が遠くなっていて大きな声でなくては聞き取れず、家族中大声で話す様になってしまいました。     
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