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冬人達が旧1-A教室の前に着くと、丁度階段から降りてきた睦美と美香が居た。
「美香・・・ちゃん、あれ?」
冬人はてっきり美香は教室にいると思っていた。
「ごめん、説得・・・出来なかった」
睦美の肩を抱いたまま、美香は冬人の方を向いてうな垂れた。
その言葉を聞いて、菜美は慌てて階段を降りた。
「美香ちゃんは、何も悪くないんだよ。ただ・・・」
そこまで言って、菜美は声を詰まらせた。
「そっか、仕方ないよ。ね、壮太君」
冬人は、壮太の方に首を捻りながら言った。
「でもなあ、出来れば全員で」
「壮太君」
言いかけた壮太を、冬人は睨みつけた。
さっきまで、あんなに悲しんでた美香が、あの後頑張って説得の協力をしに行ったんだと思うと、冬人はそれを責めようとする壮太が許せなかった。
「そ、そうだよ、な。ダメなものはしょうがない…」
冬人に気おされ、視線を左斜め上に逸らし、頭を掻きながら壮太は渋々そう言った。
険悪な空気に居たたまれなくなった美玖が、壮太の背中越しに声を掛けた。
「取り敢えず、中に入りましょ。話はそれからってことで、ね」
その場の空気を変えたかった菜美が、壮太の背中からひょこっと出てきた美玖を見て、大袈裟に驚いて見せる。
「うわぁ、美玖ちゃん、色っぽ~い」
「そうでしょ。でも、菜美ちゃん程大きくなってないけどね」
そう言って、美玖は胸を突き出して見せる。
「美玖ちゃん、何か、変わった?」
「大人の女性になったでしょ」
そう言って美玖は笑ったが、菜美の言いたい事はそこではなかった。
美玖から、人を寄せ付けないオーラが消えている、と、菜美は感じたのだ。
瞳の奥に渦巻いていた闇が消えている様な、そんな感覚。
まるで別人のように饒舌な美玖が、話しながら時々壮太の方をチラ見しているのを見て、菜美はその変化の意味を察した。
「もう、美玖ちゃんも希ちゃんも、可愛いんだからぁ」
そう言って、菜美は美玖を派手に抱きしめた。
「な、何々、何なのもう」
菜美の胸に圧迫され、美玖も派手に腕をバタバタさせる。
一番後ろを付いて来ていた希は、突然自分の名前が出てきたことに首を傾げた。
クラスでも一番の貧乳の私の、どこを差してるんだろ、まさか、そこが小さいから可愛いって意味、と、少し卑屈になりながら。
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