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修は、自分を取り押さえていた二人の男の腕を、力任せに振り解くと、たった今バスから降りてきた男に向かっていった。
修は男の目の前に立つと、両手をポケットに突っ込んで、肩を揺らしながら言い放った。
「誰だ、お前」
男は無言のまま、視線を修に向けることなく周りを見回している。
「俺達に、何させようってんだよ、ああ?!」
その言葉に、女の方が口を挟んだ。
「何もしませんよ。バスの中ではね」
小馬鹿にされたと感じたのか、修は更に声を荒げていった。
「んなこたぁ分かってんだよ。この後何させんだって聞いてんだ」
普段は嫌な奴だが、この時だけは頼もしいと、誰もが感じていた。
修がいなかったら、皆言われるままに素直にバスに乗り込んでいただろう。
実際、普段は修と共に威張り散らしている取り巻きの三人も、この時ばかりはビビッて前に出ようとはしなかったのだから。
「百億円」
男のいきなりの言葉に、修は目を見開いた。
「欲しくないですか」
「な、何言ってんだお前」
突拍子の無い男の言葉に、修は戸惑いを隠せなかった。
「ジンさん、まずいですよ、ここではちょっと・・・」
女の方が口を挟んだが、ジンと呼ばれたその男はいたって冷静だった。
「まあ、そのチャンスが待っているという事ですよ」
次の言葉が見つからないのか、修は黙りこくってしまった。どうやら次の反論の言葉を必死に考えているようだ。
そこに、学年成績トップの松山壮太が歩み寄っていった。
壮太は鼻先に右手の中指を近付けると、黒縁の眼鏡に当てて、少し眼鏡を持ち上げる仕草をした。カッコいいと思っているのか、元々の癖なのか、壮太は人に話しかける時は、必ずそうしていた。
「その話、もうちょっと聞きたいのですが」
壮太が問いかけると、ジンは右の手のひらを壮太に向け、どうぞという動作をした。
「僕達が、逆に借金を背負うという事は?」
「ない」
「では、プラスはあってもマイナスはないと」
「マイナスがないというと嘘になるが、少なくともお金は取らない」
「では、そのマイナスってなんですか」
「それは、現地で説明する」
ここまで話すと、壮太はバスに向かった。
「僕は乗るよ。それがゲームであれ、謎解きであれ、クリアしてやるさ」
バスに向かっていった壮太を、女の方が静止した。
「女子が先です」
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