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「おいおい、入るぞ、時間ないし」
じゃれ合う菜美と美玖を横目に、壮太は教室に入った。
ちょっとだけ、菜美を羨ましいなと思いながら。
比較的雰囲気のいい冬人側とは反対に、睦美達は廊下で立ち尽くしている。
一度は教室内に入ろうとした冬人だったが、その足を止めると、美香の元へ向かった。
一旦は中に入ろうとした希も、慌てて踵を返してその後に着いて行く。
下を向いて、誰とも視線を合わせようとしない睦美と美香。
同じく何の役にも立てなかった浩平と美智也も、その後ろでこそこそと隠れていた。
「気にすんなよ」
「で、でも」
冬人にそう言われても、美香は自分のせいだという思いから、小さく首を振った。
一緒になって元気づけようと、美玖が美香の元に向かおうとしたが、菜美がその肩を後ろから抑えた。菜美なりに、希に気を利かせたのだ。
「さ、さ、私達も入るよ~」
菜美は、美玖の背中を押しながら、どうしようかと逡巡している晴海と真子に顔を向け、ウィンクした。
そのウィンクの意味は分からなかったが、晴海と真子も後に続いた。
冬人は、美香の頭に手を置こうとして一度手を伸ばしかけたが、その手をゆっくりと戻すと、美香の傍らに立った。
「どのみち、強制は出来ないんだから、さ。断るなら、それがその人の判断でしょ」
「でも、私が真実を言っちゃって、それで」
「そんなこと、ない」
ずっと押し黙っていた睦美が、居たたまれなくなって口を開いた。
「あの子達、最初から、こっちの話を聞く気なんて、なかった、から」
とぎれとぎれ、それでも必死に美香を庇おうとしているのが良く分かった。
それっきり、睦美も美香も口を紡いだ。
「それに、あれはもうしょうがないって言うか、聞く気がないっていうより、自分の事しか考えてないって感じだったよ、な、美智也」
「うん、そうそう、なんかヒステリーな感じ。出てってとか言われちゃって。混乱してる感じったよ、な、浩平」
浩平と美智也は、慌ただしく両手で身振り手振りしながら、必死に説明した。
もちろん、その現場を見ていない冬人には、彼らが何を言いたいのかはまるで解らなかったが。
「とにかく、一回中に入ろう、な」
そう言って、美香の両肩を押そうとした冬人より先に、浩平と美智也が、美香と睦美の肩を押した。
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