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「嫌だ!僕はやりたくない」
ざわついた教室から、少しだけ大き目のその声に冬人が気付き、廊下に出ようとしたその足を止めて振り返った。
「あの人達と闘うって事でしょ?そんなの、無理です」
そう言ってたのは、学生服の人だかりの中、一人だけ何故か女性もののスーツにパンツルックの少年だった。
「嫌ならいいのよ」
そう言って、教室の真ん中から教室の後ろ側に向いていた熊田は、周りを見渡した。
「他の子も、無理にとは言わない。やりたくなかったら、また元の教室に戻って待機しててくれていいから」
「長田、お前やんねえのかよ」
村瀬がその少年に詰め寄る。
「元々、熊田先生は任せろって言ったじゃないか。なのに今度はやっつけるって、意味分かんないよ」
「意味は分かるだろ!」
凄む村瀬の肩に、熊田が肩を乗せて首を振った。
「強制しちゃ、ダメよ」
「でもさあ・・・」
村瀬は納得出来なかったが、敢えて熊田に逆らう事はしない。
「そういう事なら、戻ります。制服、返して下さい」
「あ、そうね、ごめん」
そう言って、熊田は学生服を脱ぎ始めた。
大綱高校出身組の男子が、一斉に熊田の方に視線を向ける。冬人以外は。
「残念でした」
三島が声を上げた。
「ベアちゃんは、Tシャツに股引だよ」
「も、股引じゃないわよ、失礼な。タイトパンツ!」
そう言いながら熊田は制服を脱ぎ、長田に差し出した。
男子達は慌てて視線を元に戻した。浩平と美智也以外は。
長田も慌ててその服を脱ぐと、熊田に差し出した。
冬人はその時、その先の不安を感じていた。
自分達が、見事中止に追い込めたとしたら、残されたこの子達はどうなるのか。
自分達が失敗したら、自分達はこの先何をされるのか。
でももう、後戻りは出来ない。
既に監視員である白鳥を手に掛けてしまっている。
ーあの人達と闘うって事でしょ?そんなの、無理です-
そのセリフを聞いてからの冬人の視点は、床を向いたまま、定まっていなかった。
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