計画

20/24
前へ
/163ページ
次へ
「嫌だ!僕はやりたくない」  ざわついた教室から、少しだけ大き目のその声に冬人が気付き、廊下に出ようとしたその足を止めて振り返った。 「あの人達と闘うって事でしょ?そんなの、無理です」  そう言ってたのは、学生服の人だかりの中、一人だけ何故か女性もののスーツにパンツルックの少年だった。 「嫌ならいいのよ」  そう言って、教室の真ん中から教室の後ろ側に向いていた熊田は、周りを見渡した。 「他の子も、無理にとは言わない。やりたくなかったら、また元の教室に戻って待機しててくれていいから」 「長田、お前やんねえのかよ」  村瀬がその少年に詰め寄る。 「元々、熊田先生は任せろって言ったじゃないか。なのに今度はやっつけるって、意味分かんないよ」 「意味は分かるだろ!」  凄む村瀬の肩に、熊田が肩を乗せて首を振った。 「強制しちゃ、ダメよ」 「でもさあ・・・」  村瀬は納得出来なかったが、敢えて熊田に逆らう事はしない。 「そういう事なら、戻ります。制服、返して下さい」 「あ、そうね、ごめん」  そう言って、熊田は学生服を脱ぎ始めた。  大綱高校出身組の男子が、一斉に熊田の方に視線を向ける。冬人以外は。 「残念でした」  三島が声を上げた。 「ベアちゃんは、Tシャツに股引(ももひき)だよ」 「も、股引じゃないわよ、失礼な。タイトパンツ!」  そう言いながら熊田は制服を脱ぎ、長田に差し出した。  男子達は慌てて視線を元に戻した。浩平と美智也以外は。  長田も慌ててその服を脱ぐと、熊田に差し出した。  冬人はその時、その先の不安を感じていた。  自分達が、見事中止に追い込めたとしたら、残されたこの子達はどうなるのか。  自分達が失敗したら、自分達はこの先何をされるのか。  でももう、後戻りは出来ない。  既に監視員である白鳥を手に掛けてしまっている。 ーあの人達と闘うって事でしょ?そんなの、無理です-  そのセリフを聞いてからの冬人の視点は、床を向いたまま、定まっていなかった。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加