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壮太は教壇の前に立つと、意識して一度その中指で眼鏡を押し上げ、教室を一度見回してから語り始めた。
「では、僕達が考えた作戦を、これから説明します」
冬人は驚いて壮太に声を掛けた。
「あの短い間に、何かいい案が浮かんだの?」
「ああ、ずっと集中してここで練った案だ。きっと大丈夫」
自信ありげな壮太の言葉に、棘のある美玖の声が突き刺さる。
「あの先生が脱ぎ始めた瞬間だけ、作戦会議が止まってたみたいだけどね」
「ば、ばか、そんなことないって」
壮太はすこし狼狽した。
恨めしそうに睨む美玖。
慌てて教壇から降り、美玖をなだめようとする壮太。
その様子に呆れた香織が、変わって教壇の前に立つと、両手を教壇の上に付いて、少し前のめり気味に教室内を見回した。
「確認するけど。始まったらもう後戻り出来ないわよ。いいのね、皆」
香織の真剣な眼差しに、それぞれが静かに頷く。
それを確認した後、香織は熊田と宗史の方を向いた。
「その前に、淳君、康孝君、美玖ちゃん、睦美ちゃんの年齢を元に戻して欲しいんだけど、やってもらえるかしら」
熊田の後ろに隠れていた宗史は、熊田に促され、隠れたままこくんと頷く。
壮太とじゃれ合っていた美玖が、壮太を払いのけて香織に言った。
「わ、私は、このままでも、い、いいけど」
もちろんそれは、壮太を意識してのことだ。
「いや、戻しておこう」
壮太は美玖にそう言った。
「でないと…」
目のやり場に困る、とまでは、この流れでは流石に言えなかった。
「分かったわよ、壮太君がそういうなら、私は…」
美玖は憮然としながら答えた。
(か、可愛いなぁ、美玖ちゃんたら)
そのやり取りに、菜美はムズムズしている。
「私は、自分で戻せる、から、大丈夫」
睦美は、自身のナイフの表示を香織に向けた。
「あんた、それ・・・」
誰から奪ったの?と聞きそうになった香織に、潤が答えた。
「睦美ちゃんは、自分で自分を大人にしただけだから」
「じゃあ、睦美ちゃんは自分で戻して」
香織は敢えてその理由は聞かなかった。
そんな時間は残されていない。
教室の時計の針は、十四時半を回っていた。
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