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熊田に手を引かれ、宗史は淳と康孝の元へ向かい、LEDを赤く点灯させると、順に突き付けた。
淳の年齢を元の十七歳に戻し、続けて康孝にも突き付けた。
だが、少し足りない。
「宗史君を元に戻すわね」
少し怯えた目で見ている宗史に、熊田はナイフを突き付けた。
宗史が元に戻り、熊田のナイフには「17」と表示される。
「これで足りるといいけど」
熊田がそうしてる間に、三島から年齢を奪ってしまったあかりが、申し訳なさげに三島に歩み寄る。
「さっきは、ごめんなさい。これ、返すね」
そう言って、あかりはナイフの表示がゼロになるまで三島に突き当てた。
「ありがとう」
弟と同じ真っ直ぐな目で言われ、あかりは何故だか涙ぐみそうになった。
村瀬に背中を押されて、恐る恐る鹿井も美玖の元まで行くと、そっとナイフを押し当てた。
「ぼ、僕は、謝らないから、ね」
そういう鹿井の頭を、村瀬は軽く殴った。
「一言よけいだっつうの」
「気にしないわよ。私だってだまし討ちしようとしたんだもの。おあいこって事で、ね」
美玖はそう言って、鹿井の肩を叩いた。
「まだちょっと足りないわね」
熊田はそう言うと、村瀬を呼んだ。
「なんだよ、ベアちゃん」
「村瀬君も、確か少し持ってたよね」
「え?」
言われて思い出した。
海から年齢を奪って、それを熊田に戻した時、少しだけそれが残っていた事を。
改めてナイフを見ると、表示が「5」になっている。
「ちぇっ、しゃあねえなあ」
口では憎まれ口を叩きつつも、熊田に頼りにされるのは、村瀬にとっては嬉しい事だった。
村瀬は康孝の目の前に立つと、「ほらよ」と言って、顔を伏せ、空いた手で頭を掻きながらナイフを押し当てた。
「ちょ、ちょっと、村瀬君、何やってるの」
「えっ?」
熊田に大声で言われて、そっちの方を見る。
「前見て、前」
言われて康孝の方を見ると、頭髪が抜けていくのが分かった。
「スイッチ、スイッチ!」
「あ、ああああ・・・」
村瀬は慌ててナイフを引き抜くと、LEDが緑から赤に変わった事を確認して、再度康孝に押し付けた。
「もう、生きているうちに気が付いたから良かったけど」
熊田が村瀬を責める。
「いや、だって、別に、だろ?」
熊田の前での失態に、村瀬は頭に血が昇ってしまったようだった。
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