誤算

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誤算

 熊田達六人と宗史は、階段脇に潜んだ。  宗史は元の年齢に戻っても、まだ幼少期の記憶から立ち直れず、熊田にくっついたままだった。  壮太達は、隣の教室に潜んだ。香織も遅れて、扉を半分開けたまま中に入る。  暫くすると、やたら大きな靴音を立てて誰かが階段を上がってきた。  静まり返った校舎の中を、革靴を履いて歩いているため、その音は異常に大きく、廊下にまで響いてくる。 「来たわ。足音は…二人のようね」  香織が小さく呟く。 「ここまでは、想定通りだわ」  やがて、黒い服を来た二人の男が1-Aの隣の教室、現在香織達が潜んでいる教室の前を横切る。  香織達はその影が通り過ぎるのを、息を潜めて待っていた。  その二人の足音が、1-A教室の前で止まった。 「ハク、遺体は何処だ」  その内の一人が、教室に向かって声を掛けた。  教室には白鳥一人しか残っていない事から、ハクと言うのは白鳥の事と気付く。  白鳥も何やら話しているようだが、教室の奥からのその声は、隣の教室までは届かない。 「何、またか」 「で、日野香織は何処に行った?」  二人が白鳥に何やら問いかけていると、そこで予想外の事が起きた。  三島がじっとしていられず、階段脇から出てきたのだ。 「そ、その女の子なら」 「バ、バカ!」  慌てて村瀬が三島の腕を引っ張ったが、時すでに遅し。 「おい、お前、何か知っているのか」  男の一人が階段の方へ向かう。 「あちゃあ、何やってくれてんだよ。おい、どうする、これ」  壮太が左手で顔半分を抑えながら香織に呟いた。 「いえ、これはこれでチャンスね」  香織は更に小さな声で囁いた。  香織は腕を伸ばすと、右手の平を上に向け、手首を返し、ゆっくりとしゃがみながら歩みだした。  その合図に、皆も香織の後に続く。 「そんなに簡単に壊れるはずないんだけどなあ」  1-A教室の扉の前に残った男が頭を掻いた。  その男の背後に、静かに香織が近づく。  それに気付いた三島が、また余計な一言を口にする。 「ねえ、なにやってんの?」  これには流石に壮太だけではなく、香織の後ろから付いてきている全員が焦りを憶えた。  浩平と美智也などは、思わず声を出しそうになった。
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