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「何してるって、一応遺体の回収だったんだが」
どうやら残った方の男は、自分が言われたと思ったらしく、三島に答えた。
だが、階段に向かった方の男は、咄嗟に後ろを振り向く。
「お前等、何してる!」
ここでは石に徹するのが原則とはいえ、突然湧いて出てきた香織達には、動揺の色は隠せなかった。
残った男の方が振り向くより早く、香織はスタンガンタイプのそれを男に押し付けた。
体を震わせながら、その男はその場に崩れ落ちる。
香織の行為に気付き、もう一人の男が香織に向かって無言で駆けだした。
「これ持ってて」
香織はそう言って、すぐそばに居た冬人にそっとスタンガンタイプのそれを投げた。
慌てて冬人が両手を添えて、それをキャッチする。
香織もまた、その男の方に向かって駆け寄ると、左足を男のわき腹に飛ばした。
だが、その男もだたものではなかった。
香織の足を片手で受け流すと、左拳を香織の顔面に躊躇なく突き出す。
それを紙一重でかわしながら、香織は階段脇で見ている男子達に大声で叫んだ。
「見てないで押さえつけて!」
しかし、余りにも機敏な二人の動きに、村瀬達はビビッて体が動かない。また、男の正面側にいる壮太達には、手の出せる状況ではない。
二、三度二人の拳が交差し、お互いがギリギリのところで避けている。
「ここで、じっとしてるのよ」
熊田は、小さく頷く宗史を確認してから、階段脇から飛び出した。
男が初めて蹴りを放った。
香織は両腕でブロックしたが、少し体が浮いた。
男は続けて右拳を振り被った。が、その拳が動かない。
「そこまでよ」
熊田はそう言うと、その男の右腕を掴んだまま、後ろに捻って背中に回した。
「うっ・・・」
痛みを感じつつも、大声を出さないのは、日頃訓練されているからだろうか。
熊田はそのまま腕を捩じ上げると、男はそのまま床に突っ伏した。
「冬人君!」
「あ、ああ」
呆然とその攻防を見ていた冬人は、香織に呼ばれて我に返り、慌てて駆け寄ると、その男にスタンガンタイプのそれを押し当てた。
「でも、油断は出来ないわね」
香織はそう言うと、二人の男を交互に見た。
八十歳を越えた白鳥の機敏な動きを見ている香織としては、この二人もまだ衰えていないかもしれないと思ったのだ。
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