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食堂のある建物は、平屋建てで、入り口を入ると短い廊下があり、左側に二部屋、突き当りが食堂になっている。
左の二部屋の内、手前が食材保管庫、奥が調理場という造りだ。右は窓、壁があり、窓からはグラウンドが見える。
食堂棟の前に辿り着くと、それぞれが配置に就く。
入り口の右側の壁に隠れるように壮太達がしゃがみ、左側の壁に背をくっつけて、熊田達が潜む格好だ。
途中、駐輪場を閉鎖するために張られたロープをほどいて持って来ていたのを、入り口の前に渡し、その端をそれぞれが手にする。
そこまでの作業を、全員が無言でこなし、入り口の前でそれを見ていた香織が無言で頷くと、皆もそれに合わせて頷いた。
香織は一人でその廊下の奥へと進んだ。
食堂のドアを開ける。香織は残りの五人はかたまって座っていると思っていたが、そうではなかった。
入ってすぐのテーブルに四人の男が腰掛け、一番奥のテーブルに、一人の女が居た。
五人は一斉に香織の方を見たが、一人を除き、すぐに視線を外した。
唯一香織に見覚えのあるジンが、ついつい言葉を発してしまう。
「なんだ、君か。俺はてっきりマキが帰って来たのかと・・・」
「ジン!」
「あ、タカさん、すいません」
そう言って、ジンはすぐに無言になる。
ここに誰かが来ても、彼等は空気に徹する事は忘れてはいけない。
それは香織も想定内の事だったが、気になるのは、一人だけ離れた所に居る事だった。
香織は、その手にしているスタンガンタイプのソレを悟られない様に、両手を後ろに回して少し腰を左斜めに傾げると、にっこりと微笑んでそこにいる誰にともなく話しかけた。
「すいませーん。私、あのナイフ、壊しちゃったんですけどー」
言いながら、香織の顔は少し引きつってしまった。
元々、香織はそう言ったぶりっ子キャラを演じるのは苦手なのだ。
「なんだ、またか」
そう言って、タカは香織を睨むと、ゆっくりと立ち上がった。
「まったく。これは改良の余地・・・だな。おい、アン、また予備の出番だぞ」
「あんた、名前は」
アンと呼ばれたその女は、目の前のパソコンを睨んだまま言った。
名前を聞かれると思っていなかった香織は、焦りを憶えた。
「ここに予備があるって、どこで知ったの」
アンは畳みかけるように聞いてくる。
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