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香織は体を斜めにしたまま、少し前屈みになると、にっこりと笑った。動揺を悟られないためと、ぶりっ子を演じきるために。
「日野香織です。ナイフの予備があるっていうのは、友達の真子ちゃんから聞きました」
アンは、眉間に皺を寄せながら香織を睨んだ。
「あんたの所には、マキ達が行ってたはずですが、会いませんでしたか」
「マキ、さん?誰ですかそれ」
瞬時の判断で、香織はとぼける事にした。
「あら、マキに会わなかったのなら、どうしてここが分かったのかしら」
香織は、動揺を悟られない様に、更に前屈みになってその長い髪で顔を隠した。脳内をフル稼働させて、次の言葉を思案する。
「しら・・・教室のお姉さんに聞きましたー」
アンは暫く香織を睨みつけていたが、やがてテーブルの下に手を入れると、そこにあった大き目のアタッシュケースをテーブルの上に置いた。
「ヨシ君、これ、その娘に」
アンはそれだけ言うと、再びパソコンに視線を戻した。
一人の男が立ち上がり、そのケースを取りに行き、香織の方へそれを持ってきた。
ここからは賭けだった。
ここに向かう途中、真子の話から冬人が予想したナイフの仕組み。もしその通りなら、この計画は比較的楽に進む。
柴田に確認してみたが、ナイフの構造までは判らないという事だった。だが、その可能性はかなり高いであろうとも、柴田は言った。
ヨシと呼ばれたその男は、香織の前で床にケースを置き、それを開けた。
ジンと他の三人は、手前のテーブルを挟んだ奥の方に座っている。
今ここでアクションを起こしても、テーブルを回り込んでこちら側に出てくるには、タイムラグが発生する。
そこまでシミュレーションしてから、香織は次の行動に出た。
左手にスタンガンタイプのそれを隠したまま、右手を伸ばすと、香織はそのケースを素早く閉じた。
しゃがんだまま、驚いて顔を上げたヨシの右肩に、そのスタンガンを当てる。
ヨシはその場で後ろに倒れた。その様子を見ていたジンが素早く立ち上がる。
香織は素早くそのケースを手にすると、外へと向かった。
「コウ、お前も行け」
タカがそう言ったのが背中から聞こえた。どうやら香織を追ってくるのは、ジンとそのコウという男二人だけのようだった。
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