誤算

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 食堂に向かう道中。持久力のない冬人は、皆に少し遅れて正面玄関に付いた。  正面玄関では、食堂での対処方法を皆で思案していた。  冬人はその輪の中に入ると、呼吸を整えてから手を挙げた。 「ちょっと、聞いて欲しい事があるんだけど」  冬人は皆に遅れながらも、これまでの出来事を頭の中で整理していた。  違和感は、競技直前からあった。 ーなんだよこれ、おもちゃじゃねーかー  修がそう言ってナイフの刃を動かした時、白鳥は無言だった。  だが、その後壮太がナイフを自身に押し付けた後、白鳥は口を開いた。注意しろ、と。  何故、修が刃を動かした時は何も言わず、壮太の時に注意したのか。  真子が新しいナイフを手にしたとき、男は真子に言った。「これは、最初に手に取った人のDNAを読み込む仕組み」と。  階段を下りる途中で、冬人の中でこの二つの事実が繋がり、一つの仮説が生まれた。  ピンバッジを付けている者からは奪えないというのは、ブラフではないのか。  そして、名前の刻まれた者にしか使えないという事も。  引き出しを開け、ナイフを見た時、殆どの者は驚き、そのナイフを手に取ろうとはしなかった。だが、修の、おもちゃじゃねーか、の一言で、皆が安堵してナイフを手にした。  その後、壮太がナイフを胸に押し当て、白鳥の注意が入る。  逆に考えると、全員が手にするまで、白鳥は静観していた。誰かが警戒して、ナイフを手にしなくなる可能性を恐れて。  つまり。  このナイフは、手にした瞬間その人のモノとなる。それまでは誰のものでもない。  着席する場所の指定と、ナイフに刻まれたそれぞれの名前は、それを悟られないための演出ではなかったのか。  もう一つ。  ナイフを手にする事でDNA情報が読み込まれるのであれば、持ち運びはどうするのか。  もし、柄の部分でDNA情報を読み込み、刃の部分はあくまでもエネルギーを吸収する機能しかないのだとしたら、ナイフの柄を手にしない限り、そのナイフの所有者とはならないのかもしれない。  そうであれば、刃の部分を手にすることで、いくらでも持ち運びは出来る。  その可能性を柴田に問い質してみると、分からないが、その可能性は限りなく高いだろうという事だった。  そこから短い時間で作戦を練る事になる。  
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