誤算

11/17
前へ
/163ページ
次へ
 しかし、計画通りにはいかなかった。  ナイフが壊れたと言って香織が食堂に行き、予備の入ったケースを確認したら、五人の内一人にスタンガンタイプのソレを当てて素早く外に出る。一人目は痺れて動けないので、追いかけてくるのは四人。  先頭の者を転ばせれば、後から来た者もそれにつられて転ぶ事になる。  香織はすぐにケースを開け、熊田達と冬人達の方にナイフを投げる。もちろん、柄の部分を触らない様に注意して。  真子の話だと、残りは四本のはずだったので、そこにいる四人に一人ずつナイフの柄の部分を当ててから、全員で四人の年齢を素早く奪う。  最後の一人が起き上がり、出てきたところを、香織がスタンガンのソレで年齢を奪う。  そんな作戦だったのだが…。 「車のキー、この人が持ってないとなると…」  壮太がそう言うと、香織はあることに気が付き、呟いた。 「でも待って。ここには私達が乗ってきたバスの運転手はいなかったわ」  急に食堂の入り口から、鈍い拍手の音が聞こえた。  落胆して下を向いていた皆が、一斉にそちらを見る。 「いやあ、実に素晴らしい」  その音の主は、タカだった。  その場にしゃがんでいた全員が立ち上がり、香織は直ぐに身構えた。 「ああ、そんなに鯱張(しゃちほこば)らないで。私は何もしないから」  タカはそう言うと、両手を挙げながら、その現場を見渡した。 「君達の前で、試作一号機(スタンガン)を使ってみせたのは失敗だったようだね。それに、試作二号機(ナイフ)に予備があるって事も。でも、素晴らしい。私はどうやら君達を見くびっていたようだ」  タカは穏やかな口調でそう言ったが、香織達は臨戦態勢を解かないでいた。  皆は無言のままでいるが、タカはお構いなしで話を続けた。 「車のキーとか言ってたな。君達はそれでどうするつもりかな」 「あ、あの鉄の扉を開けるんだ、よ」  無言に耐えきれなくなった三島が口火を切った。  この期に及んで、隠し立てすることも無いと悟った壮太もそれに続く。 「車を動かせば、あの扉が開くんですよね」 「ほう。その情報はどこから?」 「あんたの仲間だよ」  これに答えたのも三島だった。 「そうか。マキだな。やはり君はマキに会っていたか」  そう言って、ジンは香織を見た。睨むというよりは、憐れむかのように。  
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加