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しかし、計画通りにはいかなかった。
ナイフが壊れたと言って香織が食堂に行き、予備の入ったケースを確認したら、五人の内一人にスタンガンタイプのソレを当てて素早く外に出る。一人目は痺れて動けないので、追いかけてくるのは四人。
先頭の者を転ばせれば、後から来た者もそれにつられて転ぶ事になる。
香織はすぐにケースを開け、熊田達と冬人達の方にナイフを投げる。もちろん、柄の部分を触らない様に注意して。
真子の話だと、残りは四本のはずだったので、そこにいる四人に一人ずつナイフの柄の部分を当ててから、全員で四人の年齢を素早く奪う。
最後の一人が起き上がり、出てきたところを、香織がスタンガンのソレで年齢を奪う。
そんな作戦だったのだが…。
「車のキー、この人が持ってないとなると…」
壮太がそう言うと、香織はあることに気が付き、呟いた。
「でも待って。ここには私達が乗ってきたバスの運転手はいなかったわ」
急に食堂の入り口から、鈍い拍手の音が聞こえた。
落胆して下を向いていた皆が、一斉にそちらを見る。
「いやあ、実に素晴らしい」
その音の主は、タカだった。
その場にしゃがんでいた全員が立ち上がり、香織は直ぐに身構えた。
「ああ、そんなに鯱張らないで。私は何もしないから」
タカはそう言うと、両手を挙げながら、その現場を見渡した。
「君達の前で、試作一号機を使ってみせたのは失敗だったようだね。それに、試作二号機に予備があるって事も。でも、素晴らしい。私はどうやら君達を見くびっていたようだ」
タカは穏やかな口調でそう言ったが、香織達は臨戦態勢を解かないでいた。
皆は無言のままでいるが、タカはお構いなしで話を続けた。
「車のキーとか言ってたな。君達はそれでどうするつもりかな」
「あ、あの鉄の扉を開けるんだ、よ」
無言に耐えきれなくなった三島が口火を切った。
この期に及んで、隠し立てすることも無いと悟った壮太もそれに続く。
「車を動かせば、あの扉が開くんですよね」
「ほう。その情報はどこから?」
「あんたの仲間だよ」
これに答えたのも三島だった。
「そうか。マキだな。やはり君はマキに会っていたか」
そう言って、ジンは香織を見た。睨むというよりは、憐れむかのように。
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