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校内放送のスイッチが入る。
ーテロナイトメア終了まで残り二十五分です。皆さん、注意してくださいー
そう言って、スピーカーのスイッチが切れる音が響く。
切れると同時に、美香は立ち止まり、スピーカーのある方向を向いた。
「今の、何?」
「何って、残り時間だろ」
後ろを付いてきた村瀬が、美香を追い越しながら言う。
しかし、今までと違うその放送に、村瀬以外の皆が立ち止まった。
「おい、どうしたんだよ。あと二十五分しかないんだぞ」
先頭になってしまった村瀬も、流石に足を止めて振り向く。
「今までは、一時間おきだったよね」
三島が言う。
「三十分前なら分かるけど、なんでこんな中途半端なの」
美香も続ける。
「あの声、まさか」
香織が何かに気付いたようだった。壮太がそれに聞き返す。
「どうした?」
「そっか。あの放送はあらかじめ用意されてたものでは、なかったのね」
「ん?どういう事」
「あれ、食堂に居た、アンとかいう女の声よ。間違いないわ。と、いう事は、この放送はあの部屋からされていて…」
三島が横から割って入る。
「だから何?」
だから何と言われると、だから何なのかは香織にも解らない。
ただ、それがその場で直に放送されている、という事実が分かっただけだ。
美香は更に違和感を憶えた。
外部に知られたくないはずのこの競技。
それなのに、スピーカーから聞こえるその声は、間違いなく校外まで響いているはず。
矛盾している。そう感じたが、その先は見えない。
「三十分前の放送を忘れただけじゃねえの?」
「そうだよ。それより急がないと」
この期に及んで、未だに菜美の左右を伴奏していた浩平と美智也が言う。
言われて、美香と香織は思考を止めた。
「考えても無駄ね」
香織のその言葉に弾かれるように、再び皆がその乗用車に向かって走る。
美香と冬人は納得できない顔をしていたが、それでも遅れて走りだした。
柴田が素早く車に乗り込む。
エンジンの掛かる音。
だがまだ安心は出来ない。
本当にこれで鉄の扉は開くのか。
ゆっくりと左に旋回するクラウンを、皆が期待と不安の眼差しで追う。
フロント部分を鉄の扉の前に向け、柴田は車から降りると、その鉄の扉を見上げた。
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