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その扉は、大きな音をたてながら、ゆっくりと開き始めた。
皆に安堵の表情が浮かぶ。
美香は、冬人の顔を斜めに覗き込んだ。
「ねえ」
その仕草が、ついさっきまで忘れかけていた美香への想いを思い出させた。
何かを考えていた筈だった冬人の心が、不安げに自分を見つめる美香の色に染まる。
「何、考えてた?」
美香に言われて、美香の顔を見たら忘れちゃった、とは言えなかった。
「え、えっと、やっと出られるかな、とか」
「嘘」
まさか、自分の想いに気付いてるのか、と思った冬人の頭に血が昇る。
「冬人君の事だから、また何かに気付いたんじゃないの?」
冬人は、そういう事か、と安堵と落胆を同時に感じた。
それでも、今の冬人の思考は、美香によって完全にその回転を止めていた。
鉄の扉が、人一人通るには十分すぎるほど開いた。
校門の前には、道路が左右に向かって走っている。
左斜め前に、大綱高校廃校の煽りで閉店した商店がある以外は、道路に沿って民家が繋がっている。
手前側、大綱高校を囲むフェンスの切れた左の端には、小さな公園があり、かつて大綱に通っていた生徒達も、当時は時折そこによっては、ブランコに腰掛けたりしていた。
右側は延々とフェンスが続き、その先に小さく信号機が見える。
最初にそこから飛び出したのは村瀬だった。後に生田も続く。
香織は、熊田達に先に出るよう誘導した。
「やっ、た。出られたぞ!」
村瀬は拳を握って、その両腕を突き上げた。
扉の左右に立っている黒服たちは、微動だにしない。
「だ、大丈夫みたいだ、ね」
美香に見とれていた冬人の脇から、希が声を掛けた。
「う、うん、そのようだ、ね」
急に声を掛けられて、我に返った冬人は少し慌てた。
「おやおや、こんなところに学生さんがどうしたね」
閉店した商店の脇から、老夫婦が出てきて、村瀬に声を掛けた。
「それがさあ、こん中で、とんでもない事やってんだよ」
村瀬が目の前のおばあさんに、気さくに返事をした。
「そう言えば、何やら放送が流れてた様な」
「そう、それ!ちゃんと聞こえてなかったん?」
村瀬がその老婆と話をしてると、熊田の後から出てきた宗史が首を傾げた。
「おばあちゃん、誰?」
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