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「な・・・」  流石の村瀬も言葉に詰まる。 「そ、そんなの、聞いてません」  美香も思わず声を張り上げた。 「説明、必要ですか?」  その女は相変わらず無表情だ。 「例えば、野球で九回を待たずに帰ったらどうなりますか?ボクシングで試合中に逃げたらどうなりますか?そんな事、いちいち説明するまでもないと思いますが」  もう誰も口を開かない。  反論しようにも、次の言葉が出てこない。 「敗者は『合宿所』に入ってもらいます。合宿といっても、体を鍛えたりとかは、一切ありません。ただ、次の競技が決まるまで、そこに住んで頂くだけですので、その辺はご安心下さい」  事情を知っているであろう、熊田達は反論こそしないが、無言でその女を睨みつけている。  冬人達は、女の次の言葉を待った。 「『合宿所』は、『楽園』の中にあります。楽園内での行動は自由にして頂いて結構です。但し、楽園から出る事は出来ません。こちらからは以上です。後、分からない事は現地にてご確認をお願い致します」  そこまで言うと、その女は再び席に着く。 「熊田、さん」  壮太が熊田を呼んだ。 「教えて頂けませんか。今、どこに向かっているのか。そして、そこがどんなとこなのか」  熊田は、移動中のバスの中を、よろめきながら壮太の横まで来ると、補助席を倒してそこに座った。  青木崎出身組の皆が身を乗り出して、熊田の言葉を待った。 「私も、詳しい地名までは分からないの。ただ、そこはダム建設予定地だったらしくって、そこの住民は立ち退いたんだけど、その後建設が中止になって、そこに」  皆、熊田の一字一句聞き逃さない様にと耳を澄ませている。 「彼等は街を造ったのよ」  一拍置いて、さらに熊田は続ける。 「ただ、街といっても、住民はいないわ」 「街なのに人がいないって、それって街って言わないんじゃ」  壮太が聞くと、熊田はうつむき気味に首を振った。 「形だけの街よ。一軒家も、マンションも、スーパー、コンビニ、家電量販店まであるわ。でも、人はいない」  そこまで言って、熊田は少し息苦しそうになる。 「お金も要らないの。欲しいものは、勝手に店から持ち出していい。でもね、街を囲む山の中腹は、高いフェンスで覆われてて、そこから出る事は、不可能」
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