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楽園
熊田は、今までになく真剣な眼差しで皆を見渡した。
その途中、冬人と目が合った。
そのタイミングで冬人が聞く。
「生贄ってなんなんですか」
「この競技が本格的に始動したら、二通りの大会が開かれる事になってるの。一つは、お金が欲しい人、低所得世帯を中心とした、若さの奪い合い。そしてもう一つが」
熊田は伏し目がちになった。言い淀んでいる事から、皆が、事の重大さを今更ながら感じた。
「富裕層、若さを欲している権力者が、一方的に生贄と呼ばれる者達から若さを奪う、狩りの様な大会」
それはつまり・・・
「私達は、そんなクソみたいな奴等に、スケープゴートとして提供される訳、ね」
香織が誰に言うでもなく、小声で呟いた。
意気消沈している皆に、熊田は話を続けた。
「いい、今はまだ試験段階なの。だからまだ、そこから出るチャンスはあるの。ただ・・・」
誰一人として、顔を上げようとしない。中には、熊田の言葉がもう届いていない者もいる。
「ルール、試作機、全ての条件が整ったら、プロトタイプとしての競技は終了となって、その時点で、楽園から出る道は、完全に閉ざされる」
それまで黙って聞いていた潤が、ある疑問を投げかけた。
「熊田さん、随分と詳しいようですが」
その一言に皆がハッとした。まさか、熊田は運営側の、と。
「現地に付けば、スタッフが意気揚々と教えてくれるわよ。特に前回の私達は、殆ど何もしないで終わっちゃったから、脅しの意味も兼ねてたみたい。『次は真剣に勝ちに行かないと、どうなるか知らないぞ』って、ね」
そこまで言って、熊田は海とのやり取りを思い出し、自己嫌悪に陥った。
いくら自分の生徒達のためとはいえ、その若者の生命力を奪おうとしていた事に。
肩を震わせ、言葉に詰まっている熊田の肩に、壮太がそっと手を添えた。
「熊田さんも、苦しかったんですね」
そう言われて、熊田の頬を涙が一粒流れた。
大人として、子供達を守ることだけを考え、自分だけは弱みを見せまいと張っていた気が、壮太の一言で緩んでしまった。
「あーあ、泣かせちゃった」
壮太のその行為に、少しやっかんだ美玖が言った。
「ばか、今はそんな時じゃない」
「ご、ごめん・・・」
壮太に睨みつけられ、美玖は肩を窄めた。
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