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これ以上、熊田から話を聞くのは無理だと、誰もが感じた。
そこからは、誰一人口を開くことなく、時間だけが過ぎていく。
思った事をなんでも口にしてしまう三島は、あろうことか、いびきを掻いていた。
その音がバスの中に響き渡って、誰かが噴き出した。
それにつられるように、一人、また一人と笑い声を上げる。
「よく、この状況で眠れるよな」
「ある意味、凄い人なのかもね」
正治と鈴子が口を開く。
二人とも、この重い空気に耐えきれなくなっていた。そんなタイミングでのいびきに、止まっていた息を吐き出すように言葉に出したのだった。
美香もケラケラと笑っている。
冬人は、ひと時の安堵を憶えた。
どの位経ったのだろうか、バスがゆっくりと停車した。
ハッとして皆が正面を見ると、そこにも青木崎高校で見たのと同じ、鉄の門があり、それがゆっくりと開く音が響く。
再びバスがゆっくりと前に進むと、背後から扉の閉まる音がした。
そのまま、ゆっくりとソコを進んでいくと、熊田が小声で呟いた。
「本当に可哀そうなのは・・・」
そこまで言うと、また喉を詰まらせて、次の言葉が出なかった。
やがてバスが停車すると、一番前に座っている女が立ち上がってこちら側を見た。
「到着しました。皆さん、バスから降りて下さい」
「おい、着いたぞ、起きろ」
生田に肩を揺すられ、三島が寝ぼけ眼で生田を見る。
「ん?授業終わったの?」
どうやら夢でも見ていたようだ。
そんな三島と生田を横目に、全員がバスから降りる。
熊田に言われた通り、そこはひとつの街のようだった。その街の中央に、バスが停まっている。
降りて最初に目に入ったのが、小さな公園だった。
ブランコ、滑り台、砂場、シーソー、各種遊戯道具。それと、
「こ、ども?」
最初に降り立ったあかりが、目の前の光景に目を疑った。
ここは、人の住まない街ではなかったのか。
後から降りてきた冬人達も、一様に驚いた。
そこでは、下は三歳位、上は小学生だろうか、中学生だとしても、せいぜい一年生だろうと思われる、あどけない子供達が二十人位で遊んでいた。
誰ともなく、熊田の方を見る。
「ここだけ、じゃ、ないのよ」
熊田は胸を抑え、苦しそうに言葉を紡いだ。
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