楽園

2/4
前へ
/163ページ
次へ
 これ以上、熊田から話を聞くのは無理だと、誰もが感じた。  そこからは、誰一人口を開くことなく、時間だけが過ぎていく。  思った事をなんでも口にしてしまう三島は、あろうことか、いびきを掻いていた。  その音がバスの中に響き渡って、誰かが噴き出した。  それにつられるように、一人、また一人と笑い声を上げる。 「よく、この状況で眠れるよな」 「ある意味、凄い人なのかもね」  正治と鈴子が口を開く。  二人とも、この重い空気に耐えきれなくなっていた。そんなタイミングでのいびきに、止まっていた息を吐き出すように言葉に出したのだった。  美香もケラケラと笑っている。  冬人は、ひと時の安堵を憶えた。  どの位経ったのだろうか、バスがゆっくりと停車した。  ハッとして皆が正面を見ると、そこにも青木崎高校で見たのと同じ、鉄の門があり、それがゆっくりと開く音が響く。  再びバスがゆっくりと前に進むと、背後から扉の閉まる音がした。  そのまま、ゆっくりとソコを進んでいくと、熊田が小声で呟いた。 「本当に可哀そうなのは・・・」  そこまで言うと、また喉を詰まらせて、次の言葉が出なかった。   やがてバスが停車すると、一番前に座っている女が立ち上がってこちら側を見た。 「到着しました。皆さん、バスから降りて下さい」 「おい、着いたぞ、起きろ」  生田に肩を揺すられ、三島が寝ぼけ眼で生田を見る。 「ん?授業終わったの?」  どうやら夢でも見ていたようだ。  そんな三島と生田を横目に、全員がバスから降りる。  熊田に言われた通り、そこはひとつの街のようだった。その街の中央に、バスが停まっている。  降りて最初に目に入ったのが、小さな公園だった。  ブランコ、滑り台、砂場、シーソー、各種遊戯道具。それと、 「こ、ども?」  最初に降り立ったあかりが、目の前の光景に目を疑った。  ここは、人の住まない街ではなかったのか。  後から降りてきた冬人達も、一様に驚いた。  そこでは、下は三歳位、上は小学生だろうか、中学生だとしても、せいぜい一年生だろうと思われる、あどけない子供達が二十人位で遊んでいた。  誰ともなく、熊田の方を見る。 「ここだけ、じゃ、ないのよ」  熊田は胸を抑え、苦しそうに言葉を紡いだ。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加