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冬人達の反応が一瞬遅れた。
女の言葉に切れた香織が、女の頬を思い切り引っ叩いたのだ。
しかし、香織の力でも、その女は顔だけ横を向けたまま、微動だにすることはなかった。
「平手なだけ、マシだと思いなさいよね」
睨みつける香織に、その女は顔を正面に向き直ると、冷静に言い放った。
「他人の心配より、ご自身の心配をなさってはいかがですか」
それだけ言うと、香織の後ろで呆然と立っている冬人達に目を向けた。
「あちらに見えるマンション、どの部屋をお使いいただいても結構ですので、ご自由にお選びください。なお、室内に設置してある電話機は、当局との通話のみとなりますので、ご質問がありましたら、そちらでも結構です」
それだけ言うと、女は踵を返した。
「気持ちは…分かるけど…」
蚊の鳴くような小さな声で、その女が言ったのは、誰かの耳に届いたのだろうか。
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