不安

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不安

 冬人達四人が校門まで来ると、校門の脇、花壇を囲む石の一つに、この学校の英語の教科担任である真崎真一(まさきしんいち)が腰掛けていた。  真崎は去年三十路を迎えたばかりで、所謂熱血先生という言葉がぴったりの、生徒一人一人の問題に対して積極的に取り組むタイプ。それ故に、一部の生徒からは、元気だけが取り柄と揶揄される程だった。  冬人は一瞬、目を疑った。  いや、おそらくはここに集まっている者全てがそうだっただろう。  (こうべ)を垂れて腰を曲げ、両の腕を膝に乗せたカッコで両手を組み、一向に顔を上げようとしない真崎。黒々としていた筈の髪は白髪が大半を占め、つやつやだった肌も、ところどころシミが浮かんでいる様にも見える。  春休みの間に何があったのか。いや、そもそもこいつは本当に真崎先生なのか。  誰もがそう感じているに違いなかった。  真崎の前には、見た事のない男が二人立っていた。  上下黒のスーツで身を固め、既に集合している3-Eの生徒達を睨んでいる。  流石にサングラスまでは掛けていなかったが、それでもここに居る者全てを威圧するには十分だった。  誰もがその異様な男達を恐れしり込みする中、修はその男達に食って掛かっていたのだ。 「真崎!これがどういう事なのか説明しろって言ってんだよ」  そう言って真崎に近付こうとする修を、二人の男が制止していた。  修の声が届いているのかいないのか、真崎は一向に顔を上げようとはしない。  冬人はこの時、何かを思い出しそうになっていた。だが、それが何なのか、どうしても分からない。  体育館の方から、微かにスピーカーから漏れる誰かの声が聞こえた。  どうやら始業式が始まったようだった。  その声に合わせるかのように、校門の外に止めてあるバスから、上下を黒で固めた男女が降りてきた。 「皆さん!」  女の方の張りのある声が、校門前に響き渡ると、全員の視線がそちらに向けられた。そして、この時初めて、真崎もゆっくりと顔を上げた。  男の方が、全員の視線がそちらに集まっている事を、一人一人の顔を一通り見渡して確認すると、ゆっくりと口を開いた。 「それでは、出発の時間になりましたので、まずは女子から、その後男子がこのバスに乗って下さい」  改めてそのバスを見ると、車内は全て黒いカーテンで覆われていた。
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