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「そ、そうだ。忘れていた」
下手な嘘。忘れてなんかなくて、私に話したいことがあったんでしょう?
それでも、何だろうってとぼける演技をする私もおかしいんだけれど。
「60年だ」
「なにが?」
「結婚してからもうすぐ60年だ」
「あ……そうだったわね」
私たち夫婦はもう戦えない。そう気づいてしまったわけだけれど。
今日を最後の冒険にして、終わるつもりだった。やっぱり難しかったわね。
体力も随分となくなってしまったし、魔力だってない。
「お前は不満か?」
「え?」
「こんなふうに冒険に連れ出して、まだやりたいことがあるのか?」
「やりたい……こと……」
まさか。ただ、私は彼と一緒にここに来たかった。多分、それだけ。
ダンジョン内でのクエストは、あまり考えてなかった。
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