第1話 斗陽の想い

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 長い付き合いだから簡単に意思疎通ができると言うわけじゃない。特に睦人はいつも自分が本当に言いたいことは隠して、こちらに察して欲しいという態度だ。  そう思い通りにはならない。それにしても今日はあきらめが悪い。  今日は駄目だと、自分で自分に言い聞かせた。  「もう、いいよ。僕は勝手に出かけるから」  不機嫌な表情を隠すこともなく睦人はドアを大きな音を立てて閉めると出て行った。しんとした部屋に残りながら、俺にだって用事があるんだよと小声で呟いた。  人の気も知らないで、睦人は不機嫌この上ない。あいつとの付き合いが長い分、これが長引くこともよく知っている。  もしかしたら二人で一番過ごしたい日を一人で過ごす事になるかもしれない。  気まぐれな猫みたいなあいつの事だ、帰ってくるとは限らないと気が重くなった。  今日はどこへ行くとも言わないまま強引だった。いつもとは少し違ったかもしれない。何をしたいのかちゃんと聞いてやるべきだったのだろうか。  とりあえず用事を済ませたら電話をして、たまにはあいつの:我侭(わがまま)に少し付き合ってやってもいいか。  街は連休の買い物客で溢れている。雑踏の中に楽しそうに笑う声が聞こえる。その瞬間に寂しくなってしまった。一緒にここに連れてくれば良かったと後悔し始めた。     
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