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   外は秋を間近に控えた、冷気を含む風が吹いていた。  まだ半袖の人もちらほら見えるが、寒がりな私は小さく身震いをした。マフラーでも持ってくればよかったかもしれない。でも、今着ている洒落っ気の無いウィンドブレーカーに、家にある赤のマフラーを合わせると輪をかけておかしなコーディネートになるだろうと思い辟易する。  そんなことを考えながら待ち合わせの店に向かっていると、後ろから声をかけられた。 「葵!」  振り向くと、由亜が立っていた。  秋口仕様のトレンチコートに、ボリュームのあるふわりとしたマフラーを重ね、タイトな黒のパンツを合わせている。胸元には派手すぎない、小さなハート型のネックレスが覗いていた。  私とは全然違う、女の子らしい格好。お金は無いが、いつもその服装を見るたびにそれを丸ごと買い取りたいと思ってしまう。  私は小さく挨拶をした。 「久しぶり……」 「ひええ、寒いねえ今日は。パンケーキ日和だね」  気温とパンケーキはあまり関係無いと思う。由亜は相変わらず言い回しがユーモラスで、かわいくて、私が横でセンスの無い格好をしていても気にしない。  私にとって、彼女は天使のような存在だった。  
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