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   二人が見えなくなったあと、私はそっと店を出て駅へと向かった。  改札へ入り、自分の家へと向かうホームへ向かう。胸の奥にモヤモヤとしたものが吹き溜まっていた。  何だろう、この気持ちは。  あのときみたいだ。ビデオカメラの向こうで、私の分身が別れを告げた、あの瞬間。あの虚しさ。  この感情は何だろう。  何ていう名前だったっけ……。  瞬間、ごう、とホームを特快電車が通り過ぎた。  前髪がパラパラと揺れる。危ないですよ、と言われて駅員に腕を引かれた。  ぼんやりとしていて前に出過ぎていたらしい。私は後ずさり、並んでいる列の一番後ろに回った。  ホームには溢れんばかりの人がいる。こんなにも、人がいるけれど。  ……そうか。  納得した瞬間、私は涙を落としている自分に気が付いた。  
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