木曜日の君

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木曜日の君

 恋に落ちる瞬間は、いつだって途方もない。  降り出した雨は、金平糖のように懐かしい色をしていた。  彼女のなで肩が、僕の折りたたみ傘の中で、いつもより一層丸まっている。  紺色の傘にはじく雨音は ぱらん、ぱらん、と僕には恥ずかしいくらい、似つかわしくなかった。  ぱらん、ぱらん。  彼女は遠慮がちにこちらを向いた。下(まぶた)がぷっくり膨れ上がるほど、目を細めている。 「……寒い」  ぱらん。  胸がきゅっと縮こまって、濃厚に波打つ。  鳴る。  熱い。  僕はたまらなくなった。  傘を押し付け、巻いていたマフラーをぶっきらぼうに彼女の肩にかけるやいなや、夜の街にダイブするように駆け出していった。  雨はやっぱり、懐かしい味がした。
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